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浦和地方裁判所 昭和32年(ね)4号 判決

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件申立の理由は、申立人は貧困のため訴訟費用を完納することができないというのである。

よつて審査すると、当庁の照会に対する飯能市長の申立人の資産状況調査回答書および申立人に対する放火被告事件記録によれば、申立人個人としては土地家屋を所有せず、かつ他に特に財産は有しないと認められる。しかし、同じ右放火事件記録によれば、申立人は肩書住居において農業を営む父覚吉と母もんの下で扶養され、他家に縁づいた姉一人あるだけで他に兄弟はなく、また覚吉は畑と宅地各約一反、住家一棟を有し、裕福ではないが日常の暮しには困ることがなく、知能に欠陥のある申立人にその治療を受けさせる等申立人の扶養について充分その意志を有することが認められる。

そして、このように訴訟費用の負担を命じられた者自身が格別の資産を有しないとしても、その者が両親から扶養され、支障なく日常生活を営んでいるという状況にある場合には、刑訴法第五〇〇条第一項にいう貧困のため訴訟費用を完納することができないものとはいい得ないというべきであろう。けだし、そうでなければ、未成年者、病弱者等が父母等から扶養され、不自由なく日常生活をしているのに、その者自身に特に財産がないという理由で訴訟費用を免除するということになり、いかにも不合理な結果となるばかりでなく、このような場合には訴訟費用もまた生活上の必要的出費の一つと見られるのであるからその納付について扶養者の援助を容易に期待し得るはずであつて、このような状況にある場合にはもはや貧困というにはあたらないからである。そして、本件は丁度このような場合にあたると認められるのである。

右の次第で、本件申立はその理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判長裁判官 伊沢庚子郎 裁判官 谷口正孝 大久保太郎)

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